独創的なチャレンジで美味しさを追求!
菓子製造業の新しいカタチ
企画・品質管理室長 渡邉恵理 / 富士高原スイーツ工房 株式会社 / 静岡県富士市久沢1108−1
2018.02.28
4年前、自社工場の敷地内に初の直営店「Chocotto(チョコット)」がオープン。クチコミで評判が広がり、今では県内外からスイーツ好きが集う人気店となっています。いままでは、スーパーなどの小売店への出荷や、OEMなどの依頼を受けて製造していましたが、これからは自社で商品の企画から販売までやっていけるようにしたいと意気込んでいます。企画・品質管理室長の渡邉恵理さん(以下、匠)と、娘の渡邉恵子さん(以下、二人目の匠)に話を聞きました。
「地元グルメや生産者とユニークな商品でコラボ」
– 街なかではないのに、直営店にはお客様がひっきりなしに来店していますね。
二人目の匠:はい。おかげさまでオープン以来、ご近所の方をはじめ多くのお客様にご来店いただき、弊社のスイーツを味わっていただいています。
スーパーなどの小売店へ出荷している商品は、冷凍で配送してチルド販売するものが多いので、「生」の商品は直営店で取り扱っています。外の看板には「アウトレット」と書いてありますが、じつはここでしか買えない商品もあるんです。この、いちごのショートケーキは直営店のために作っているんですよ。季節のフルーツタルトも人気があります。
– ショーケースに「富士宮焼きそばケーキ あ宮(あみゃー)」が並んでいますが、これはとてもユニークな商品ですね。
二人目の匠:弊社で考案し、富士宮の焼きそば学会から公認をいただきました。弊社の副社長の丸山雄一はパティシエで、この商品の開発も担当しています。凝り性なので、一度取り組むととことん追求する性格(笑)。本物そっくりの見た目だけではなく、美味しさにもこだわりを持って作っています。
ソースの色はカラメルで付けてあり、麺はクレープ生地、肉かすをチョコクランチ、それから青のりは抹茶のパイで表現しています。冷凍販売なのでお土産にしやすい上に、お宮横丁の焼きそばと同じ450円で売っているのも、シャレが効いていると評判なんです。
– 野菜スイーツ「Hatta Cake」は、どのような経緯でできたのですか?
二人目の匠:農商工連携の一環として、専門家に入ってもらって企画した商品です。富士山麓で農業をやっている「あかねファーム」さんのオーガニック野菜を使って、旬の野菜のケーキを作っています。食べやすさはもちろん、見た目の鮮やかさにもすごくこだわっているんですよ。この企画を立ち上げるため、商工会の皆さんにいっぱいお世話になりました。
最終的には「トマトのレアチーズ」と「ジャガイモのフロマージュ」、「ズッキーニとりんごのパイ」を製作しました。「ズッキーニがスイーツになるなんて!」と驚かれますが、それぞれの素材の食感が楽しめますし、ズッキーニは青臭さや癖がないので意外と合うんです。
「“人”に支えられて作る美味しいスイーツ」
– あかねファームさんとは、もともとお知り合いだったのですか?
二人目の匠:じつは、あかねファームの小池あかねさんと私が同い年だったこともあり、専門家派遣で来ていただいた広報企画アドバイザーの寺田望先生から「あかねさんと会ってみない?」と誘われてお会いしました。彼女が作った野菜を初めて味わったとき、色の鮮やかさや味の良さにとっても驚いて、この野菜を使えばいい商品が作れると直感したんです。
寺田先生はお若いのに、知識が豊富でいろいろな所に顔が利くので、とても助かりました。あかねさんたちといろんな話をしていたら、新しい事業ができてきたという感じですね。
副社長の丸山は、新しいものを作りたいという気持ちをつねに持っているので、話しているとアイディアがどんどん出てきます。野菜ケーキのときも、試作品を作ったらものすごくたくさんの種類ができてしまって(笑)。その中から出す商品を3つに絞るのに、とても時間がかかったんですよ。
– 工場ではたくさんの機械を導入して作っているのですか?
匠:手作りを売りにしていることもあり、「工場」と言っても、ほとんどの製造工程が手作業なんです。機械でできない部分、例えばロールケーキを巻くのは手で巻いています。昔は、ケーキを等分にカットするのも人の手でやっていたのですが、さすがに今は機械でカットをしています。
弊社の主力スタッフのほとんどがパートさんです。少数精鋭で20人ほどがパティシエの指導のもとで製造をしています。入社したての頃は、お菓子製造が未経験の人がほとんどだったので、丸山が手取り足取り教えて、ケーキ作りを覚えてもらいました。
社員の池田ゆかりは以前、まったく異なる業界で仕事をしていたのですが、入社以来、製造技術を高めて現在は主任パティシエをやっています。昨年、とあるスーパーのクリスマスケーキカタログに、弊社の女性パティシエとして顔写真が掲載されるまでになったんですよ。
「中小企業ならではの強みがジレンマに」
– これだけたくさんの販路があると売上も安定しているでしょうし、売り先にも困らないのではないですか?
匠:弊社は今まで「手作りだから小回りが利く」という長所を売りにしてきました。季節限定商品を作ったりデザインや素材を変更したりと、販売店さんの細かいご要望をぜんぶ叶えてきてしまったんです。
それが原因でアイテム数がどんどん増えてきて、人手が足りなくなってしまったので、(商品のクオリティを維持するために)製造する商品をこちらから選ばせていただくことにしました。本来、工場というのは、同じものを大量に作って販売していったほうが効率がいいんですよね。しかし弊社の場合は、工場を完全に機械化していないため、販売店さんのご要望を受け入れやすかったのです。ご要望をすべて叶えたいのは山々ですが、やはり、より良い商品をお客様に届けたいですからね。
そういった流れもあり、工場の生産効率を上げるにはどこまでを機械化すればいいのか、製造スタッフが動きやすくなる動線や人員の配置など、商工会さんと相談したり、(商工会から)派遣していただいた専門家の先生に診てもらったりしています。
私たちがあれこれ考えるよりも、専門家の目で見て「こうしたほうがいい」と明確に答えを出してもらったほうが、従業員にも伝えやすいですよね。
「商工会は新しいチャレンジを応援してくれる強い味方」
– 商工会の制度を上手に活用されていますが、どうしたら上手く活用できますか?
匠:補助金制度や専門家派遣など、中小企業のためになる良い制度がたくさんありますが、普通に生活していると知らないまま過ごしてしまいます。商工会から(制度などを)案内してくれますが、その情報に敏感になることが活用の第一歩。「こういうことをやりたいんだけど」という話から、最近だと軽減税率の話まで、いろんなことを担当のかたに相談しています。すぐに調べて教えてくださるので、とても強い味方で頼りになる存在ですよ。
– 今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか?
匠:経営革新計画の承認やものづくり補助金を取得し、焼菓子の製造販売に挑戦したいという思いがあります。冷凍チルド商品だと消費期限や賞味期限があるため、流通に限度があります。もっと多くのお客様に、弊社のお菓子を味わって頂きたいですし、ものづくり補助金で新しい機械を購入したので、これはぜひ実現したいです。
地元の素材にこだわっているのも、私たちの売りのひとつ。そこで今いちばん取り入れたい素材が静岡県産のチーズです。「国産で」となると、生産量やコストの面でどうしても北海道産になってしまいます。さらに工場で使うとなると大量なので、輸入チーズを使うしかなくなってしまうんです。ようやく、静岡県内でチーズを作っているところに心当たりができたので、生産者さんとお話しようという段階に来ています。
それから、静岡県のお土産の新定番となるお菓子を作ることにも、チャレンジしていきたいです。
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企画・品質管理室長 渡邉恵理
富士高原スイーツ工房 株式会社
静岡県富士市久沢1108−1
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