確かな腕前と誠実な仕事ぶりで
周囲から応援され期待され続ける鉄工所
代表取締役 西川悟 / 西川鉄工株式会社 / 静岡県富士市久沢1114-2
2019.03.18
現在は二代目の西川悟さん(以下、匠)と三代目の西川寛文さん(以下、二人目の匠)のもと、オーダーメイド感覚で、よりお客様のニーズにフィットした製品の設計・制作・修理を提供しています。そうしたなか、現在、革新的なナイロン樹脂製造機械の開発に取り組み、さまざまな業界から大きな注目を集めています。
「実直な先代が遺してくれた“信頼”という財産」
– 創業時からのエピソードなどを教えてください。
匠:ここは私の父が創業したのですが、主に工作機械の修理を行っていました。
自宅の居間を土間にして、そこに機械を2、3台入れた程度のもので、下請けのまた下請けみたいなものだから安い仕事ばかりで、ありとあらゆる仕事をやってきたという感じです。
そんな父親を見ていて、初めの頃は、「利益の出ない仕事ばっかりよくやるよな」「こんなに自分らがんばってるのに、何でうちの工場(こうば)はこんなに金がないんだ」などと思っていました。
それで一度、ひどいことを親父に言ったことがありました。そしたらすごく寂しい顔をされて、「いまにわかる時がくる」って言われたんです。
徹夜はだいたい月に2回はやっていました。のべつまくなし仕事で、絶えず残業。若い時分私は工場の2階に住んでいたのですが、夜、階段を上がっていく時に「じいちゃんおやすみ」と言うと、「早く寝ろよー」と仕事をしている父が言うのです。親父がやっているもんだから私も泣き泣きやったりしてね(笑)。仕事がもう趣味というぐらいの人でした。
だけど、それで、「困った仕事は西川さんのとこに持って行けばいい」というような感じで周りからは頼りにされていましたね。
だから、ちょっと自慢話になって申し訳ないけれども、東田子の浦に「立圓寺」というお寺があるのですが、そこの丸柱を削ったのがうちの親父なんです。
立圓寺の総代長を当時、高木産業(現:パーパス株式会社)の創立者が務めていて、その方と親父は知り合いだったんです。それで、「お寺を改築するにあたって欅の柱を何本か用意してあるんだけれども、富士地区で木を削れる人は西川さんしかいないから」ということで訪ねてきたんです。
私も父と一緒に現場を見に行きまして、うちは旋盤を持っていたので、それで削れるだろうというので、全部で50何本削りました。鉄工所なのに木工所以上の仕事をしたわけです。それというのも親父に刃物を作る技術があったからです。見習いの頃、父は木工職人と同じ工場内にいて、そこで刃物のことも覚えたんですね。
そんな人でしたから、亡くなった時はあらためて、このぐらいの職人はいないと思いました。いまだに、富士地区にこれだけの職人はいなかったなと思います。すごい親父だった。とても足元に及ばない。
こっちは遊びたくてしょうがなかったのに、この人はいったい何を考えているんだろうと(笑)。親父は62歳で亡くなったのですが、もうちょっと生きてもらえたら私もラクできたんだけど(笑)。
「取引先が最強のサポーターに」
匠:ともあれ、そうやってあくせくやっていたら、抄紙網(製紙の工程で液状パルプを吹き付け脱水するための網)の製造で業界大手の企業から仕事を依頼されるようになったんです。そこで使用する機械の改造や修理等をうちが請け負うことになり、それで徐々に上向き加減になってきて、数値制御NCの機械等、いろいろ設備投資もできるようになったんです。
そうしたなか、設計屋さんとも縁があってうちのしごとをしてもらえることになったので、さらに仕事の範囲が広がっていきました。
現在は、その抄紙網メーカーさんは、海外製の新しい機械を入れたりしていて、うちの出番も少なくなってしまったのですが、現在も協力会社としてうちのことを大事にしてもらっています。
二人目の匠:その抄紙網メーカーさんが、繊維製品を扱う関連会社に、直々にうちを紹介してくれまして、関連会社さんにも、オーダーメイドでいろんな機械を設計・製造してきたうちの技術力を、高く評価してもらうことができました。
匠:以前、その抄紙網メーカーさんにはエンジニアリングの部署があって、大手企業の仕事を請け負っていたんです。うちも抄紙網メーカーさんの下請けで大手企業に出入りしていたのですが、その会社のエンジニアリングの部署が廃止されることになり、その会社の紹介で、そっくり仕事を引き継がせてもらい、うちで直接、大手企業の仕事ができるようになったんです。こんなことって通常有り得ないですよね。本当にその抄紙網メーカーさんにはお世話になっています。
– 最近はどのような製品を作られているのでしょうか?
匠:たとえば、車両移動用ジャッキがあります。国土交通省の仕事なのですが、これもやはりバックアップがあってできたものです。
50年ほど前から、道路や橋やトンネル等の研究をする研究所から、橋桁の疲労試験で使用する模型の部品製造を頼まれるようになりました。そしたら、試験をする橋やトンネル等の形が複雑になり、研究所さんが自分で作るのが難しくなってきたので、「西川さんのところで直接やってほしい」ということになり、今では試験用の模型の完成まで請け負っています。その研究所さんからいろいろとバックアップしてもらって、直接国交省とも取引をすることになったんです。
二人目の匠:それで、国交省からの指示でブレーキをつけたりした車両移動用ジャッキが商品化されたのですが、現在、関東地方整備局と、埼玉県の県土整備事務所等、合計で車90台分を納めています。
地震などの災害時、降雪時等、車が路上に放置されてしまうので、それを移動させるためのジャッキですが、女性でもラクに使える仕様になっています。
製造のための工作機械の購入にはものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金)、販路開拓のチラシ作りのためには持続化補助金(小規模事業者持続化補助金)の申請を行うなど、商工会さんからもサポートを受けて展開しています。
「ナイロン樹脂で新境地を拓く」
– さまざまな業界から必要とされているのですね。
匠:だからといって、「なんでもかんでもできます!」というわけではないですよ(笑)。
でも、だいぶ期待が持てるような開発をいま、連携を組んで行なっています。
ナイロン樹脂を作るための開発で、 世の中にはすでにナイロンを扱うメーカーがあるわけですが、私達が取り組んでいるのは、「3NI‐NYLON(スリーエヌアイナイロン)」といって、液状原料を成形型の中で混ぜて固化させ、原料から直接、自動車部品、機械部品、丸棒、板材、パイプ等の製品を成形できるという画期的な手段です。
優れた機械的性質、熱的性質、機械加工性があって、軽量化用途に適しています。原料の流動性がよくて大気圧下で成形ができるので、シリコン型で使用できます。そのため、これまでより経費も納期もかからず、少量生産も可能になるというメリットがあります。
たとえば、車のエンジンカバーの試作を作ろうとしたら、通常は金型が必要になるのですが、それが不要になる。3 D プリンターで作ったシリコン型に液体を注継すると、5分ぐらいで固まるんです。
従来は、真空成形と言って、細いパーツを接着剤で貼って、それを車につけて走ってみて具合をみるというやり方をしていましたが、一体ではないから本当の強度がわからないですよね。そうした強度検査の問題も解決できます。
注液の硬化剤を変えることで強度を上げることができたりします。
ちなみに、「3NI‐NYLON」の3NIというのは、うちと共同で開発をしている会社(株式会社二幸技研)の「ニ (NI) 」と開発者の名前の「ニ (NI) 」、そしてうちの社名の「ニ (NI) 」。この3つが「ニ (NI) 」で始まることからつけた名前で、商標もとりました。それぞれの得意分野を合わせて開発してきたわけです。
そのナイロンの成形設備が昨年うちの工場内に完成したので、今年はそれでデモンストレーションを行う予定でいます。自動車メーカーや電動工具メーカーなど、国内外のいろいろな業種の企業が関心を持つのではないかと思っており、私達もすごく期待しているところです。これを成功させることが今の私達の最大の目標です。
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代表取締役 西川悟
西川鉄工株式会社
静岡県富士市久沢1114-2
0545-71-2680
http://nishikawa-tk.co.jp/
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