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ここにしかない美味しさを追求
地域に根差した和菓子店

代表 望月里志 / 御菓子司南岳堂 / 静岡県富士市中之郷820-2
2019.03.18

JR富士川駅から近く、人気のハイキングコース上にお店を構える御菓子司南岳堂。初代は富士市吉原の南岳堂で修業を積み、唯一のれん分けをしてもらった菓子職人でした。現在は三代目となる望月隆之さん(以下、匠)も家業に加わり、黒糖どら焼き「黒富士」など、「ここでしか買えない」人気の和菓子を開発、販売しています。
匠は商工会青年部で部長を務めたこともあり、多くの仲間たちと交流するなかで、厳しい環境にある小売業界でありながら、周囲の協力にも恵まれ、前向きにチャレンジし続けています。

「みんなの力が結集した限定商品“黒富士”」

– 創業はいつですか?

匠:昭和24年です。祖父が吉原の南岳堂さんで15年程修業して、のれん分けしてもらったと聞いています。経緯はよくわからないのですが、のれん分けしてもらったのは唯一うちだけのようです。

– おすすめのお菓子はどれですか?

匠:たとえば、黒糖どら焼きの「黒富士」です。富士山と富士川をかたどった独自の焼き印が押されていて、地域の特徴が出ていることもあり、とくにご進物として人気があります。
ネットで販売してはどうかという声をいただくこともありますが、ここで毎朝焼き仕上げている商品のため、店頭でのみ販売しています。

「黒富士」の開発には、商工会さんからのサポートも大きくありました。
「専門家派遣」の制度というものがあると教えていただき、まずは、専門の方から率直な意見を聞きたいと思って来てもらいました。
それでわかったのが、第一に「菓子の種類が多すぎること」でした。売れない店の典型だそうで(苦笑)、その先生に教えてもらうまで、そうしたことは全く知りませんでした。
「美味しいお菓子ってどういうの?」と聞かれて、明確な回答を見つけられずにいたら、「人が入ってきた時にすぐこれだって買うお菓子」「何度でも食べたくなるようなお菓子ですよ」と言われたことも驚きでした。
だから最初は、どのお菓子が売れているのかを調べるところから入りました。そこで、先生と商工会さんとを交えて分析を行い、話し合いを重ねていった中で浮上したのが「どら焼き」でした。
それで、地域の特色を取り入れるなどしたオリジナルのどら焼きを作ることにしました。
この頃私は、沼津にある大手和菓子店に研修に行っていたのですが、そこの社長さんにもいろいろと意見をいただきました。

お菓子が完成すると、パッケージのデザインも必要だとなって、デザインの先生にも入ってもらいました。じつはこのお菓子のパッケージは、風呂敷の模様なんです。
ここに店舗を作ったのは今から35年前の昭和59年だったのですが、それ以前は岩淵(坂下)地区にお店がありました。その当時、お客様に差し上げていた風呂敷で、もとは若草色でしたが今は色あせて、1枚しか残っていません。
これを見たデザイナーさんが、「素晴らしい!」ということで、パッケージに反映されたんです。店先の看板も、パッケージデザインと同じイラストで作りました。
その際、持続化補助金も活用させてもらったのですが、こんなふうに、「黒富士」には周囲のいろんな人達の意見、協力があって完成したという経緯があります。本当に感謝しています。
小売業者の多くは厳しい状況にあると思いますが、一方で、こういうところが小売りの良いところなのかなと思いました。

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「商工会仲間との語らいで一念発起!半年間他店へ研修に」

– 商工会さんへはご自分で問い合わせをしたのですか?

匠:以前、青年部の部長をやっていたんですよ。それと、商工会の職員さんの中には同級の方が何人かいて、そういった同世代の付き合いなんかもあったんです。それで、ざっくばらんに話をする機会もあって。だから、考えてみたら、そういうことがなければ、何もなかったということですよね。

うちは、持続化補助金を2年連続でいただいているんです。2回目は、「休憩ができるお菓子屋さん」ということでいただいたのですが、この辺は野田山でハイキングをする人が多いんです。
JRの「さわやかウォーキング」でも人気のコースらしいのですが、富士川駅で降りて、お店の前をリュックを背負った方がたくさん歩いていかれます。
そこで、ハイキングコースの看板を設置し、店内と外に椅子を設置して休憩スペースを設けました。簡易的な給茶機も用意したので、ちょっとした休憩場所として利用いただいています。

– 先ほどお話されていた沼津の菓子店には何の研修で行かれたのですか?

匠:小売店を支えてきてくれた地元の人達が、今は車で外に出て行ってしまいます。さらに近隣にはコンビニができて、スイーツでもなんでもものすごいスピードで新商品が開発され、地域の商店がどんどんダメになってきているという、地域の小売業者には難しい厳しい時代ですよね。
そうしたなか、たしか青年部長の任期が終わり青年部も卒業という頃、周りの同年代の人達が、親の代を引き継いで社長になるかならないかぐらいのあたりだったのですが、同業で商売をたたむ決断をする仲間がいたりして、そういった会話のなかで、自分はちょっと生ぬるいのではないかと思えてきたんです。それで、経営的な勉強もかねて、よそのお菓子屋さんに研修に行こうと決めました。

– 研修先の菓子店には何かのつてがあって行かれたのですか?

匠:いえ、まったく知らない所です。まさに懐に飛び込んでいくというような形で、自分でそこの社長宛てにメールを送りました。
個人でやっている小売のお菓子屋さんだと難しいと思うのですが、大きなところだと受け入れてもらえるのではないかと思ったんです。
たとえば、カメラマンの世界なんかも、有名な人の元へ行って学ぼうとしますよね。そういったことで連絡をしてみました。そしたらすぐに「ちょっと来てみて」ということで連絡をいただいて、半年間そこへ通わせてもらいました。

– どのような研修をしていたのですか?

匠:菓子作りに関しては、ある程度私にも技術、経験があるだろうというので、ポジション的には下ではなく、普段の仕事と同じようなこともしていましたし、研修会では講師の助手として手伝うこともありました。
学ばせてもらうこともさることながら、制作の中枢のような部分で、いろいろと意見を聞かれることもありましたね。
「黒富士」の開発で相談させてもらったこともそうですが、今でも協力してもらえるような、そういう関係性を築かせてもらえたことにもとても感謝しています。

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「味噌店とのコラボで誕生した人気の“おみそプリン”」

– 厳しい中でも、周りからの協力も得るなどして歩んでこられたのですね。

匠:この「おみそプリン」もそうですね。すごく売れているのですが、これは清水区にある木嶋こうじ店という味噌屋さんとコラボして作ったものです。
以前、ブログをやっていたのですが、「ブログ見ました」と、そこの方がうちにお菓子を買いに来て下さったんです。そのとき、「うちのお味噌を使って何かお菓子できます?」みたいな感じで言われたんです。
その後、ブログを見てわざわざ来てくれたのだし、じゃ、こちらからも買いに行ってみようかと、でも、ただ行くのもなんだしと思って、みそまんじゅうを作って持って行ったんです。
そしたらすぐ電話がかかってきて「 今度うちの味噌を使ってスイーツを作るという取材が来るんですけど、できますか?」って言われたんです。いきなりのことで驚きました。しかもうちは和菓子屋です。それで、「やるならプリンかな?」と言ったら、「いいですね!」というので急きょコラボが決まりました。ただ、2週間くらいしか期間がなかったのでかなり焦りましたね(笑)。
後日、アナウンサーの方と一緒に工場の中でプリンづくりをして、無事に放映されましたけれど、かれこれ3年前のことですよね。以来、お味噌屋さんでもヒット商品になっていて、今も週に2~3回程仕入れに来られます。
うちの地域の方で、そこへお味噌を買いに行ってついでにプリンを買おうとしたら、「うちのはもう少ないから、南岳堂さんで置いてるから帰りに寄って買ってってもらえるかね」と言われので来ましたというお客さんもいます。そこのお味噌屋さんも人柄の良い方なんですよね。

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―そうなのですね。それにしても、「おみそプリン」はヘルシーで美味しそうですね。

匠:私の母方の親類で介護施設に入っているおばあちゃんがいるのですが、プリンが大好きなおばあちゃんらしく、面会にはいつも市販の大手菓子メーカーのプリンを身内の方がお土産で持っていっていたそうです。それを聞いた母が、「うちのプリン、ちょっと味見させてやって」と持たせたところ、おばあちゃんにとても喜ばれて、「これからはこのプリンじゃなきゃダメ」と言われたそうです。

小売りであるうちには大手のような資金力がないので、ここにしかない美味しいお菓子を作って、長く続ける努力をしていかなければならないと思っています。そしてやはり、まわりの方々に協力していただいていることに感謝して、これからもがんばっていきたいと思います。

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代表 望月里志
御菓子司南岳堂
静岡県富士市中之郷820-2
0545-81-0274


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