自社の宝を活かし、
チャレンジを続ける歯車のスペシャリスト
代表取締役社長 金子佳久 / 金子歯車工業 株式会社 / 静岡県富士市厚原291−4
2018.02.28
社長の金子佳久さんは三代目。常に新しいことにチャレンジしながら「金子式」を構築し、現在は航空機業界や先端のロボット産業から高い評価を受け、行政からも注目される存在に成長しました。
また、自社の強みを知り、周囲の環境を積極的に活用していく経営は、悩みの多い中小企業にとって大いに参考になるのではないでしょうか。
「先代が築いた技術と実績、信頼があってこその現在」
– 金子歯車工業の売りのひとつ、「金子式」とはどのようなものですか?
匠:大手が3ヶ月かかるところを最短2日ぐらいで製造できるシステムです。これによって短納期・低価格を実現しています。現在も技術の構築が進んでいます。
その技術の構築には二本の柱があります。
まず一本目の柱は、現会長の金子彦治郎が会社を立ち上げて中期ごろにさかのぼります。
当時、「まがりばかさ歯車」というベベルギアの製造をスタートすることになりました。その頃は、アメリカの歯車製造メーカーに電話回線でつないで、(歯車を作る)機械の段取りやセッティングのための計算式を出してもらっていたんです。
弊社は少量多品種を扱う会社だったこともあり、これらを手前味噌で計算して歯車を作ることはできないかという提案が持ち上がりました。当時の会長(お祖父様)から従業員までが膝を突き合わせ、連立方程式が600つながるくらいの計算式を、パソコンに手入力で組んでいったのです。この出来事が、短納期で計算・製造できる金子式の起点になっています。
二本目の柱になっているのが、ここ10年ぐらい弊社で技術革新をすすめているのがダイレクトギアミーリング。新しいCNC電算式の複合加工機、三次元測定器、CADCAMといった3つの武器を用いて、新しい技術を構築しました。
歯車は本来、規格のものですが、自動車会社などでは特別な歯車を作ります。一般規格から逸脱したものを作るため、専用の工具を作らなければならないのですが、そうすると時間もコストもかかってしまいます。ダイレクトギアミーリングを使えば、短納期で製品を作ることができるんですよ。
– 先代から受け継いだ技術を活かして新しい技術にチャレンジし、他社にできない大きな強みにしていますね。
匠:弊社の位置づけは、他社と違う立場になってきています。
ほかで断られたことを「金子さんで」という流れでいただく仕事も多く、よろずや兼駆け込み寺的な感じになっているかもしれません。昔からの技術と新しい技術の融合が評価されている証拠だと思います。
私は三代目で、現在は責任者の立場。受け継ぐ前からしっかりした土壌があるなかで、さらに新しいものを作らせてもらっています。新しい技術だけで勝負できるわけではなく、信頼と実績があるからこそ新しいことにチャレンジできるのです。決して(有名な小説の主人公の)“ドン・キホーテ”ではないということですね。
「金子さんは屋号が宝なんだよ」
– 販路の開拓はどのように行っていますか?
匠:週1〜2回くらいホームページから仕事の依頼があります。
あとは長年の信頼・実績の積み重ねからお仕事をいただくことが多いですね。同業の歯車屋さんからの紹介だったりもします。じつは、1500件ほどある顧客リストの中で、300件を超えるお客様が同業の歯車屋さんなのです。同業者から仕事をもらったり、反対に同業者へ仕事をお願いすることもあります。
やはりベベルギアを作っているという強みがあるからでしょう。その関係で航空機関連会社などのお客様を紹介してもらったり、航空機やロボットなど成長産業のお客様が直接メールをくださいます。しかも、一見さんではなくリピーターになることが多いんですよ。
鉄工場は富士市にも鷹岡地区にもたくさんありますが、すべてひとくくりで「鉄工場」と呼ばれています。旋盤やフライスを扱っている鉄工場は「旋盤屋さん」など機械名で呼ばれるので、なにを作っているのかわからない。でも金子歯車は、会社名を見れば歯車を作っている会社だということがわかるので、「歯車屋さん」と呼んでもらえます。インターネットで、「歯車」というキーワードを入れて検索すると弊社の名前が出てくるそうですよ。
弊社のホームページを作ってくれた製作会社の方が「金子さんは屋号に『歯車』がついてることが宝なんだよ。会社名を変えちゃだめだよ」と言ってくれたことがあります。名前ひとつ取っても、会社のブランディングになるんですよね。
– 技術はあるけどブランディングが上手くいかず、強みをアピールできていない会社もあるなかで、金子さんはしっかりしたホームページを作られていますね。
匠:その(前出の)製作会社に、20年くらい前からホームページを作ってもらっています。
製造業の会社って、設備投資で何千万円もの機械を導入するのに、なぜか宣伝広告費は全然かけないんですよね。
私たちも、高精度で希少な機械を導入したとき、ホームページを作るかどうかとても迷いました。今では、ホームページから注文してくださるお客様もいらっしゃいます。当時の作成料として70〜80万円ほどかかりましたが、新しく購入した機械で製品を受注すれば採算は取れると踏んだので、思い切って開設することにしました。
ホームページの開設は、ほかの会社にもオススメしています。確かにお金はかかりますが、開設して損をすることはないと思いますよ。ホームページを入口にして一流の上場企業との取引きがスタートすることもあります。そういう意味では、弊社は成功した事例ですね。
現在でも、補助金を活用しながらホームページを作り込んでいます。更新やリニューアル・動画を入れたりもしていますよ。
「自社と自分の強み・弱みを知る」
– 金子さんは「静岡県経営革新計画」の認証のほか、「ものづくり補助金」に至っては数回にわたって取得していますね。
匠:ここ最近は補助金を取得したり、行政などとタイアップしながら技術革新や設備投資をしています。補助金を取得することは、機械を買うための資金の捻出だけでなく、自社の強み・弱みを掘り起こすにはとても良い機会です。
自社がどのポジションにいるのか、競合他社と比べて何が勝っていて何が劣ってるか。それから、どういう方向に行きたいのか、誰と取引きしたいか、どういう設備を入れたらいいか。それを具体的に文字にしていく作業です。補助金を得るためには、理想を絵やストーリーにして人に説明しますが、これは自社をよく知るために必要なことだったと思います。
それを前提として、毎年1月第4週の土曜日に従業員や関係者を集めて、会社の経営計画を発表しています。もう17年もルーティーンとして続けているんです。
過去30年間経営分析しながら昨年度の具体的分析して、今後中期的なビジョンを掲げながら会社がどういう方向に進んでいきたいのかを共有するためです。
従業員はセクションにわかれて、自分たちの目標を3つずつ出す。他者と自分を比較するいい機会になります。
例えば、弊社の目標は「文化の創造」「顧客の創造」「技術の創造」。
できないような高い目標を並べるより、できる目標を立てて、そのうちひとつだけ達成できればいいんです。チャレンジすることが大事。そして年末には自己評価をしてもらいます。
私自身、完璧な人間ではありませんから、目標すべてを達成できません。失敗もするし大きいホラも吹くし(笑)。もし目標3つが全部達成したら、それはできる目標だったってことですよ(笑)。
「商工会はまるで公設の秘書」
– 現・会長の金子彦治郎さんは、商工会の会長でもあるそうですね。商工会の上手な活用方法はありますか?
匠:今年(商工会の)会長職の任期満了なのですが、もう一期やったら?と薦めているんです(笑)。うちの会長が(商工会会長を)やっていると、私にメリットがあるんですよ。なぜなのか、わかりますか?
まず、行政には「金子歯車さんは商工会会長の会社だ」と映ります。何かあれば、行政の人は弊社へ連絡を取るでしょう。こんな大きなメリットはほかにありません。いわば、ウィンウィンの関係ですよね(笑)。
これはうちが会長だからというわけではなく、商工会の会員や一般の事業主にとっても応用できることです。
「周りの環境はすべて道具として成り立つ」。要するに、それをどうやって使うかだと思います。だって、商工会は使ってもらうためにあるのですから。商工会側も、使ってもらうための引き出しをいっぱいお持ちですよ。
融資や補助金制度、支援制度だってなんでもあります。税金のことを聞けばわかりやすく教えてくれますし、「100万円融資してくれるところを調べて欲しい」といえば相談に乗ってくれます。まるで公設の秘書みたいなものですよね。
補助金ひとつ取っても、企業のためを考えて作られています。
「興味が湧いたときには(実施期間が)終わっていた」とおっしゃる方も多いと思いますが、商工会のホームページでちゃんとお知らせしていたり、チラシを配っていたりします。
日常的に商工会を使っていれば、何かがあった時「これって商工会で言ってた補助金、使えるのかな」って、ひらめくでしょう?知るだけでも自分の知識のひとつになりますし、この機会に、もっと商工会と密な関係を築いてみてはいかがでしょうか。
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代表取締役社長 金子佳久
金子歯車工業 株式会社
静岡県富士市厚原291−4
0545-71-2001(代)
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