長年の信頼と実績を未来に活かす、
“曲げ加工”のエキスパート
代表取締役 佐野純也 / 株式会社 山十佐野製作所 / 富士市厚原字八反田205-27
2018.02.28
板厚70ミリのをぶ厚い金属板を滑らかに正確に曲げる、山十佐野製作所が独自に培った極厚ロール曲げ加工技術は、プラント製品や土木・建設機械の活用などさまざまな分野で活躍しています。一方で、新しい業界へのアプローチにも積極的。磨き抜かれた技術で、新たな製品開発の可能性を広げています。
「手掛けたものが社会の役に立っていることがうれしい」
– 山十佐野製作所の強みは何ですか?
匠:ベンディングロール機の6台のうち1台が、日本で弊社にしかない特注で作られた機械です。ロール曲げはベンダー曲げよりも工程がかからずコストダウンにつながります。溶接するところも1ヵ所だけで、直径の誤差はわずか2mm程度で収まるんです。
創業以来培ってきた技術や豊富な実績を活かして、薄い板から厚い板まで、そして小さな直径から大きな直径まで、お取引先様のさまざまなニーズに応えています。
弊社はロール曲げ加工が専門で、製品そのものを作っているわけではありません。ですから(依頼されたものが)どこでどのように使われるのか、加工している私たちにもわからない場合が多いんです。
大きく分けると、土木・建設機械やプラント製品、タンクの配管など。エネルギー、発電のほか、トンネルや橋などの社会インフラでも使われています。
(利用先が)わかる範囲ですと、北陸新幹線の橋を作るときに使う杭(くい)の一部を作っています。青森スタジアムの建設や羽田空港の建て替え工事でもその杭が使われているということです。杭と一緒に地面に埋まってしまうので見ることはできませんが、そこには確かに私たちの技術が使われています。私たちが手掛けたものが社会の役に立っているのは、とてもうれしいことですし、モチベーションのひとつにもなりますね。
「商工会を通じた横のつながりを仕事に活かす」
– 日頃は、商工会をどのように活用していますか?
匠:販路開拓のために、パンフレットやホームページが制作できる補助金「小規模事業者持続化補助金」などを取得しました。
それから、私は商工会の青年部に所属していました。地域のお祭りなどを通して仕事以外のところで人間関係や信頼関係を築くことができるって、すごく大切なことです。利害関係なくお付き合いができますし、いろんな相談がしやすくなるんですよ。
弊社でできない分を引き受けてもらう会社も、元青年部長の渡辺貴寿さん(有限会社渡辺工作)に紹介してもらっていました。何でも相談しやすいですし、話を真剣に聞いてくれます。先輩たちの存在は本当にありがたいです。こうしたつながりがあってこそ、自分たちの仕事に活かせるということですね。
– 制作したホームページ経由で仕事依頼がありましたか?
匠:はい、数件問い合わせが来ました。民間のロケット開発をしている会社から、ジェラルミンを使った試作の依頼です。ジェラルミンを曲げる仕事の依頼で、どうやら、なかなか引き受けてくれる人がいなかったようですね。
というのも、ジェラルミンは一般的に曲げに使われる素材ではなく、曲げようとすると割れる素材というのが通説。どこでどうやって調べても成功例は見つかりませんでした。
「これはできないかもしれない」と思ったんですが、試作用に小さい材料を仕入れて試してみたら、どうやら曲げられそうだったので、思い切ってチャレンジしてみました。
それから、国の研究機関向けの装置を製造している会社からも声をかけていただき、銅の加工も依頼を受けました。しかし、いつもの外注先に穴あけを断られてしまい、別の外注先を探すのにとても苦労しました。なぜなら、銅の穴あけは失敗するリスクが大きいんです。困り果てて、最後は商工会青年部の先輩に相談し、チャレンジしてくれる方を紹介してもらうことができました。青年部の先輩や、商工会でのつながりはとても頼りになりますし、心強い存在です。
「別の会社でできないと断られたが、山十佐野製作所なら曲げられるのではないか」と期待されてオファーが来るのは、本当にありがたいことだ思います。
「国内最大の専門技術展で独自の技術をアピール」
– これからも別業界からオファーが来たら、チャレンジしてみたいと思いますか?
匠:ぜひやってみたいと思います。
そのために2017年6月に、東京ビッグサイトで行われた国内最大の専門技術展「機械要素技術展」に出展しました。これも商工会の先輩からアドバイスをいただいての出展だったんです。「極厚のものを曲げる」という技術がわかりにくいので、展示会で直接アピールしたほうが良いのではないかと助言をいただきました。
とは言え、その場に機械を搬入することができないので、弊社で作ったサンプルを持っていって紹介しました。この出展をきっかけに取引させていただくことになった会社もあります。
それから、半導体業界など今までお付き合いのなかった業界の方とも知り合うことができました。また、珍しい材質の加工にチャレンジしてくれないかというオファーもありました。
展示会でいろんな人からお話を聞いていくうちに、私たちが今まで気づかなかった強みやニーズ、そしていろんなアプローチの仕方があるのだということがわかりました。
できれば毎回出たいのですが、会期の3日間、会社をすべてストップすることはできません。弊社のような少人数の会社では、なかなか難しいんです。そこはちょっとジレンマですね。
今回出店した3日間も、会社での自分の業務と並行してひとりで展示会に出ていたので、体力的にもきつかったです。経営者として、きちんと営業ができる体制を作って行かなきゃいけない、ということも課題のひとつになりました。
「人とのつながりを強化し“攻め”の経営へ」
– この仕事でいちばん難しいところは何ですか?
匠:そうですね……全部難しいですね(苦笑)。もともと私は、アメリカの大学でソフトウェアの勉強をしていたんですが、平成15年に先々代(祖父)が亡くなり、続いて半年後に父である先代が急逝したので、23歳で学校をやめて日本へ帰ってきたんです。事業を継いだ当初は失敗の連続で、この仕事の難しさを痛感しました。
今回の展示会でお客様と直接話をしてみて、「お客さんのことをよく知らないと作れないんだな」ということがわかり、他の業界の勉強もしなければと感じました。
今までは頼まれたものを作るだけで、それが何に使われているのかもわからなかった。お客さんが本当に求めているものが何なのか、これは何に使われるのかなど、待っていないで自分から情報を取りに行くことが必要なんだと思います。
頼まれ仕事ばかりではなくこちらから提案をしていったり、他の人とのつながりも作って行かなければならないですね。私たちのような小さな町工場一軒だけでは戦っていけない時代です。
横のつながりを強化して、いろんな加工を受けられる状態じゃないと、他の会社と同じテーブルに乗れない。それを実現するためには、商工会を通じてのネットワークが必要なのではないかと思います。
– これから、山十佐野製作所をどのようにしていきたいですか?
匠:“曲げ”の可能性を広げていきたいです。
今は製造部門しかないような小さな組織なので、営業や広報などの部署を置いて、製造部門をサポートしたり、弊社の仕事をもっと多くの方に知ってもらえるような体制を作りたいですね。
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代表取締役 佐野純也
株式会社 山十佐野製作所
富士市厚原字八反田205-27
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