自社の強みを活かし医療分野へ進出した、
金型のスペシャリスト集団
代表取締役 矢崎和宏 / ヤザキ工業 株式会社 / 静岡県富士市松岡17-3
2018.03.30
今回お話を聞いた矢崎和宏さん(以下、匠)は、2015年に代表取締役に就任。新しい時代におけるヤザキ工業のあり方を模索してきました。2年前にメディカル事業部を立ち上げ、医療分野への進出を行っています。
「きっかけはいつも商工会から始まっていた」
– 矢崎さんと商工会とのお付き合いは、かなり濃いとお聞きしています。
匠:「僕が一番、商工会を利用しているよね」って、商工会のスタッフによく話をしているんですよ(笑)。というのも、商工会の広報部の一員として活動したり、20歳頃から青年部に所属して、青年部長をやったりしていたんです。20代で中国へ渡って会社を起こしたときも、ずっと商工会に伴走してもらっていました。わからないことがあるたびに連絡して「ビザはどうやって取るの?」なんていう初歩的なことから、「(現地の)税金ってどうやって払うの?」なんていうことまで相談していました。
きっかけはいつも商工会から始まっていたような気がしますね。かけがえのない仲間を得たセミナーへ行くきっかけを作ったのも、今積極的に進めているメディカル部門への進出のきっかけを作ったのも、もとを辿れば全部商工会。そこからたくさんのヒントをもらって、今の僕があります。
商工会を普通に使っていたら、労災や共済関連ぐらいしか利用しないんですよ。「商工会におんぶにだっこ」という人より、自分からどんどん動く人なら商工会をたくさん利用できるはずですよ。
「機械を使いこなせる以上に使いこなす、それが現代の職人」
– 何年くらいでスペシャリストになれるのですか?
匠:最低3年やらないとわかりませんが、とくに長いキャリアは必要ないんです。僕らが目指しているのは(ひとつのことを)「浅く広く」ではなく、「より深く」勉強していってもらうこと。例えば仕事に関係する材料や熱処理の知識などを自分で勉強して、自分の仕事に深く興味を持っていけるような人が、職人気質だと思っています。
反対に「悪い職人器質」というのがあって、昔の職人さんは「見て覚えろ」という姿勢だから技術を教えないんです。でも弊社では教えなきゃダメ。多能化表を作って、計画的に教えていくように指導しています。
なかには廃れていく職人技っていうのもあるんですよ。昔と違って機械でいろんなことができるようになってきたでしょう。昔、金型職人というのがいたんですが、金型職人の技の70%はもう要らないんです。なかには、それを認めない人がいるんですが、早く認めた人の方が勝ちですね。機械ができることは機械にやらせる。そういう人は残っていくんです。新しい技術や新しい職人技も、そこから生まれてきます。すべてを機械任せにしてはいけませんが、(機械を)使いこなせる以上に使いこなせること、それが現代の職人なんです。
– ヤザキ工業の強みはどういったところにありますか?
匠:弊社はダイカスト金型専門の会社なので、それ以外の金型は全くわからないんです。でもね、ダイカスト金型って、まだまだ課題がいっぱいあるんです。それを追究するために現在、金型のメンテナンス業務に力を入れています。
じつは、ダイカスト金型っていうのは、すべてが電気自動車になってしまったら半分近く必要なくなってしまう仕事なんです。しかもリーマンショックの時には、金型の製造が大幅に落ちてしまいました。その時に(仕事の依頼が)続いたのが、金型のメンテナンスでした。
そこで、金型のお医者さんみたいなことをやっているんです。従来のメンテナンスでは、お客様が「直して欲しい」というところを直すだけでした。しかし弊社は、非接触三次元測定器ATOSⅢという機械を導入して、測定しながら悪い所を見つけ出し、正常なモデリングと比較してどこを直したら良いか、お客様に提案をしています。いわば、金型のレントゲン検査みたいなものです。測定しながらお客さんに提案できる会社は、業界内でも少ないと思います。そこがうちの強みですね。
「金型づくりが導いたメディカル事業への道」
– いま、医療分野へ挑戦しているとお聞きました。
匠:はい。メインの柱である金型にちょっと危機感があるので、もうひとつの柱を作りたいと思っていまして。それが今挑戦しているメディカル事業です。
今100万個以上売れてる「パタカラ」(http://patakara.com/)という器具があるんです。歯学博士の先生が考案・開発した器具なんですが、偶然にもその先生と知り合いになりまして、直接許可をいただき、その「パタカラ」の改良版を作っています。
これを作るには金型が必要なんです。歯学博士の先生は医療専門の方ですので、製造方面は得意ではないのです。うちは型屋さんだから、当然、形にするのは得意ですよね。
どうしても「パタカラ」を販売したかったので、先生とお会いした時に「製品の形状を少し変更するとこれくらいの金額で作れます」と見積もりしてみたら、他社よりもかなり安く作れることがわかったんです。製品のどこを改良すれば安くできるか説明したら「製品形状を見直しただけでそんなに安くなるの!?」って驚かれたんです。
その結果、弊社のダイカスト金型の一部の技術が使えるということで、設計からやらせてもらえることになったんです。もちろん、医療関係の器具を販売するのに必要な資格(製造販売業、製造業、販売業)も取りました。
– 矢崎さんの本業である金型づくりが、先方のニーズを掘り起こし、念願の医療分野への進出の足がかりを掴んだということですね。
匠:はい。「10〜20年後、電気自動車が完全に普及したら僕らの商売はダメになる。どうしようかな」って、ずっと考えていたんですよ。商工会から勧められて、沼津高専でやっている「F-met富士山麓医用機器開発エンジニア育成プログラム」を受講して1年間ガッチリ学んだんですが、これだけしっかりした法律に守られている業界だったら、うちの入り込めるところはないかも……とあきらめかけていました。
メディカル事業に取り組むのは、弊社のもうひとつの柱となる事業を作るため。でも取り組むとなれば、ヤザキ工業の創業者である矢崎貞一、96歳になる僕のおじいちゃんのためになるような医療器具を作って売りたいと思っていました。
何かヒントが欲しくて医療関係の展示会に行き、「パタカラ」と開発者の先生と巡り会い、ようやく道がひらけてきた気がします。今は日本だけで販売していますが、日本のしっかりした法律を守って作られた医療器具ですから、きっと中国など海外でも売れるはずです。
「『一人一匠』、社員さん一人ひとりに得意な分野を」
– 社員教育も熱心に行っているというお話を聞きました。
匠:このインタビューのテーマになっている「一社一匠」という言葉がとても好きです。僕の考え方とよく似てるんです。僕は「教育」が好きなんですよ。今、弊社では、月・水・金曜の毎朝30分、火・木曜の毎朝1時間、私も含めて、みんなで勉強会をしています。
例えば、みんな「生産管理」って言葉だけは知っているけど、実際、やったことないんですよね。学校では教えてくれないし、自分で学ぼうにも、どこで学んだら良いかわからない。社内で勉強会をやることによって、知識だけでなく、自分たちでデータを持って実践できるようにしようと思いました。講師の先生がたは、静岡市や横浜、広島などから来てくださっています。
まず変わったのは班長さん。以前と違って「俺たちの会社」という姿勢に変わってきているんです。ここ半年間、現場の改善とか指示していないんですよ。自主的にやってくれるようになったんです。私の負担もなくなり、すごく楽になりました。僕はもう実務的な仕事は1日に30分もしてないかもしれない(笑)。
社員さん一人ひとりに「この部分に関しては俺に任せろ!」っていうところを作っていきたい。いわば「一人一匠」ですね。これからも教育を続けていきたいと思っています。
それから、僕はいつも「社員さん全員に社長になってもらいたい」って言ってるんですよ。社長が一番面白いと思うんですよね。自分でやりたいことを見つけて、目標を作ってそれに突っ走るだけでしょう?それをみんなやろうよ、って言っています。会社を作ってもらってもいいんだけど(笑)。問題ばっかり抱えるけど、社長って楽しいですよ。
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