画像

「そば」にも「人」にも愛情いっぱい
家族で楽しめる手打ちそばと日本料理の店

代表取締役 川口修 / 泉の里 / 静岡県富士市入山瀬516-1
2019.03.18

富士市に店を構え40年。家族で楽しめる郊外型大型店でありながら、添加物を使わず、創業者の川口修さん(以下、匠)自らが厳選し、全国から取り寄せた素材で作るそばの味わいには、古くからのファンも多い。今や地域を代表する手打ちそばの名店といえる「泉の里」ですが、近年は日本料理の修業を積んだ二代目も加わり、宴会や法事などの会食でも好評を得ています。
人とのつながりを大切にする匠は、人材育成にも力を入れており、のれん分けで故郷に店を構えた弟子達も。そんな匠は現在、商工会副会長も務め、自らの経験と実績にもとづいたアドバイス等により経営者の方々からの信望も厚く、頼れる存在として活躍しています。

「背水の陣で富士市に出店開業」

– このお店を始めた経緯を教えてください。

匠:この場所で開業して40年になりますが、最初は関東方面のそば屋さんで10年間修行し、それから神奈川県の相模原市で独立開業しました。小さいお店で、女房と二人で7年程やっていました。機械で麺を打っていたのですが、それを手打ちでやりたいと思って、ここで始めることにしました。

もとは愛知県の出身で、この辺には親戚も誰もいませんでした。
ただ、東海道が好きでしたし、あとはやはり、 商売がうまくいくかどうかということを総合的に考えたときに、関東方面もいろいろまわってみましたが、この土地が一番良かった。交通量から人口から土地価格から、あとは、繁盛しているそば店もありましたし、これなら自分もこっちでやっていけるんじゃないかと思って勝負をかけたわけです。
厳選素材を使った手打ちそばというスタイルで、家族で来られるファミリーレストラン的な「地域一番の店」ということを最初から思い描いていました。

相模原のお店が結構繁盛していたので、当初は相模原店と富士店と両方でやろうと考えていました。それだと借金も少なくて済むし、富士店で何かあっても、相模店があれば路頭に迷うことはないだろうと。ところが、相模原の店長が自分一人ではできないと言うので、結局そこは売り払うことにしました。
富士店は最初200坪で始める予定だったのですが、 片側の土地も売ってもいいというので、300坪になっていました。うまくいかなければその土地を売ればいいとも考えていて、当時はバブルでしたので。とはいえ、その当時でも、銀行から相当大きな借り入れをしなければならなかったから、まさに背水の陣ですよね。
ただ、当時は30歳で若かったし、万が一無一文になったとしても、自分が職人として働いて家族を食わせていけばいいやと、そんな感じでしたね。

01_04

– そうしたチャレンジ精神はどこからわいてくるのですか?

匠:やはり、「夢」を叶えたかったということですよね。そしてその夢に女房がついてきてくれたことが大きいですね。女房は借金がどれだけあるか知らなかったんです。聞かれなかったから言いませんでしたが、聞いたらもうびっくりしたでしょうね(笑)。だから、女房もすごいと思うよね。頭が上がりません。今も現役で働いてくれていますし。ありがたいことです。

「理想をとことん追求した手打ちそば」

– お店のこだわりや特色を教えてください。

匠:全部自然の食材で、添加物も一切使わないところです。そば粉は群馬の赤城山のものというふうに、全ての素材にこだわっています。天ぷらで使用するごま油は関東方面から取り寄せていて、一斗缶で17,000円程のものを使っています。醤油やみりんもこの辺では手に入らないものです。そうした厳選素材を使って、全部手作りでやっているところが特色ですね。
だから値段はちょっと高めですが、「それだけの価値はあるよ」と言ってくださる方が多いですね。良い食材で良い値段をもらえたらと思っています。
バブル期で一番良いものしか売れないという時もありましたが、 今こんなふうに景気が下がってきてもお客様に支持されていて、値段はずっとバブル期のままできているから、お客様も納得してくれていて商売もつながっていると思いますよね。

– 食材は全国から探すのですか?

匠:もちろん。たとえば、良いそば粉は、北海道、青森、福井、九州にもありますが、それを友達との付き合いを通じるなどして、「今年はどこのそばがいいか」とか、「そば名人と呼ばれているような人は今どこのそばを使っている」とか、そういう情報もつかんで、それで自分も買ってみて、やはりいいものだと思ったらお店でも使うということでやっています。
そうやって見極めるというのが職人の努めですよね。ですから、腕の鍛錬だけではなく、情報収集力というのも全てそろえて作っているわけです。
そうやって厳選したそばの実を今度は、群馬から取り寄せた石臼でここで挽きます。そば粉を挽く最適なスピードにカスタマイズしたモーターで回して、挽きあがった粉を自分達で打っているわけです。
「田舎せいろ」という限定10人前のメニューがあるのですが、これは黒いむき実のまま、お店の前にある石臼で自分達が手で回して挽いた粉で作っています。

01_02

– 美味しいそばを作るために大事なことはなんですか?

匠:たとえば、定年退職してそば教室へ通って一生懸命作ったものも、真心がこもっているから美味しいんですよ。ただ、職人はそうはいかない。機械で打ったような正確なそばを出さないといけないし、そば自体の外側のざらつきなんかもみなければならない。
体調も大切です。手を怪我していたらそばも練れないし。だから手は顔より大事(笑)。
だけど、ある程度のレベルまでいったときに、どこで差が出てくるかというと、「今日は絶対に美味しいそばを作るぞ!」と、そういう気持ちがあるかないかというところですよね。
そうした心がけを持ってやっていても、私自身、「今日はよくできたな」というのは年に1、2回しかありません。
まして、二日酔いだとか、「また仕事かよ」と思いながらやるのとでは、全然違って出てきます。それだけに面白い。極端にこんなふうにあらわれて出る仕事ってそんなにないですよね。

– 40年もやっていると、古くからのお客様もいらっしゃるのでは?

匠:いますね。歩けなくなってからも、生涯通ってくださった方もいます。その方は最後にがんセンターに入院していたんですが、退院の日にご家族が、がんセンターの食堂で食べていこうと言ったら、「いや、泉の里のそばを食べたいからオヤジさんのところに行くんだ」ということで、みんなで来てくれたんです。職人冥利に尽きるというか本当に嬉しかった。それから間もなく亡くなったと聞いて、もう涙が出てきましたね。「オヤジさん、オヤジさん」って、ずっと通ってこられていた方でね。
そしたら、その亡くなった方の法事を昨年ここでやってくれたんです。嬉しかったですね。

01_04

「地域と人とのつながりを大切に」

– 商工会では副会長をされているそうですね。

匠:商工会とライオンズクラブにも入っていて、地域のために活動するということをさせてもらっていますが、自分も楽しみながら続けています。
会合なんかで出ていくと、人とのつながりができて交流が生まれます。私は地元の人間ではなくて友達が少なかったから、そういうのがすごく嬉しいんです。たしかに、商工会でもライオンズでも、活動を続けるとなると、時間が取られたりお金を出さなければならないこともありますが、でもそういうことにお金を出すのは苦にならない。若い人にご馳走するのも好きだし。
だから、全然見ず知らずの土地に来たのだけれども、ものすごい交流の場が広がっていって、今となっては地元の人よりも知っている人が多いぐらい。それが何よりの財産です。
そしてそれは、いろいろ出歩いても、従業員のみんながサポートしてくれているおかげですよね。

– それだけやはり、人を育ててきたからではないでしょうか。

匠:そうかもしれないね。中学校卒業してずっと何十年も勤めていた子もいて、その子が店を持ちたいとなったときはのれん分けでお店を出しました。静岡市立病院の隣にも「泉の里」があるのですが、そこです。弟子も人生を掛けるほどの借入をしましたが、私が保証人になりました。普通はできない、そんな保証人。でも親子の関係だからね、弟子と師匠で。
何人も弟子の独立を応援しましたが、なかには、のれん分けをした直後に重圧に耐えられなくなって逃げてしまった子もいました。多少は損害も出ましたが、なんとか折り合いをつけたということもあります。
それでも、自分で見て守ってやりたいという子がいたら信じて、それからも同じようにやっていました。ただし、当時はバブル期だったから良かったのであって。今はもううまくはいかないですね。
今は従業員として面倒をみるという形でやっています。埼玉から来た子がいますが、この近くに家を買って子供も3人いて、それで暮らしていけているという感じですね。

商工会は、行けば友達もいっぱいいるし慕ってくれる人もいます。自分にとっても魅力があるのですが、もっともっと会員を増やして商工会をもっと活用してもらいたいという気持ちがすごくあります。
やはり、いろんな仲間と情報交換ができるし、融資も活用していける。それで、困った時なんかも相談しあえたり、一緒に乗り越えていける仲間みたいなことでやっていますが、自分もそういうふうにしてやってもらってきたのでね。
この店を始める際、保健所から指導があって最初営業許可がおりなかったんです。 そしたら、当時の飲食組合長がいっしょに保健所へ説明に行ってくれて、それで許可がもらえたということもあって、本当に助かりました。
自分も、後進や若い人にアドバイスができる立場に今度はなって、何も立派なことはできませんが、できることはしてあげられたらいいなと思ってやっています。

01_04

information
代表取締役 川口修
泉の里
静岡県富士市入山瀬516-1
0545-71-4035


>お問い合わせ

一覧に戻る