画像

勘違いから生まれた?珠玉の味わい
世界最高峰のハム・ソーセージ

代表取締役 佐野友俊 / 有限会社グロースヴァルト / 静岡県富士市南松野2066-1
2019.03.18

世界に名だたるハム・ソーセージ専門店グロースヴァルトSANOの原点は、大正時代にまでさかのぼります。代表取締役の佐野友俊さん(以下、匠(兄))と、専務取締役の佐野弘行さん(以下、匠(弟))の祖父が養蚕の研究から養豚に転向したことが始まりで、その後、父親が精肉店を、匠兄弟が現在の専門店を開業と、時代とともに変化してきました。
1994年にオランダのコンテストで日本人初となる金メダルを受賞すると、その後も多くの栄冠に輝き、2016年には、フランクフルトで開催されたIFFA2016国際ハムソーセージコンテストで日本最多となる金メダル14個を獲得。「世界のSANOブラザーズ」と称えられる今なお研鑽を欠かさず、業界をリードし多くのファンを魅了し続けています。

「自炊してわかった実家の肉の美味しさ」

– 今のお店以前の歩みを教えて下さい。

匠(兄):大正時代に祖父が養蚕の研究をやっていて、それが養豚に移り、その後、父親が婿で入って、最初は会社勤めをしていたのですが、僕が小学校に入る頃に精肉店を開業しました。肉屋の前段階の流通を祖父がやっていて、その後の小売の方を始めたわけです。

– 最初から家業を継ごうと思っていたのですか?

匠(兄):大学時代は商社に入りたいとも思っていました。
不思議なことに、子供の頃から、おたくの肉は美味しいと言われていて、でも自分としては肉なんてどこも一緒じゃないのと思っていた。それが、学生時代に東京で一人暮らしを始め、お店で肉を買って食べてみたら、「なんじゃこれは!」と。それだけ味に違いがあった。実家を継ごうと思ったのは、それがきっかけですね。

01_04

「なぜ肉屋は惣菜を作るのにハム・ソーセージは作らないのか?」

– ハム・ソーセージを作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。

匠(兄):家業に入ってすぐ、「惣菜は自分達で作るのに、なぜハム・ソーセージは業者から仕入れて販売するの?」という疑問がわいてきたんです。しかも、ハンバーグなんか腸に詰めたらソーセージになっちゃうじゃん!と(笑)。焼き豚だって、塩味にして燻煙したらそれハムじゃないの?と、思い切り都合のいい勘違いをした(笑)。

父や周囲の肉屋さんに聞いてみたら、「そういうもんだから」と。そして「そんなもの作ってどうするんだ」というので、なかには、「お前のところにあまり安く入らないんだったら俺が問屋に言ってやるぞ」と言う人もいて。「いや、そうじゃなくて自分が想像するものを作りたいだけなんだ」と言ったら笑われたけど。

でも、“そんなもの”と一蹴するくらいだから、誰でも作り方を知っているのだろうと思っていたら誰も知らない。しょうがないから自分で考えてやるしかなくて、趣味で一から始めました。

レシピ本といっても当時はアウトドア用のものしかなくて、その本を全部買って作ってみたけど、違ったものしかできないとわかったり。惣菜用クリーム絞りをソーセージ詰めへ応用したり。暗中模索です。
ある程度わかってきたところで、神奈川に相模ハムという会社があるのですが、そこの研究室に遊びに行かせてもらい、そこで最終的にこれでなくちゃハムと呼んではいけないというところを教えてもらったりもして。結局、完成までに10年かかりました。

01_04

– いろいろとご苦労されたのですね。

匠(兄):いえ、好きな事を好きなようにやっているだけで、釣り好きが、どうやったら魚が釣れるかなとずっと待ってやっているのと大して変わらないんです(笑)。
肉屋はそれなりにまだ商売になっている時代だったし、切羽詰まって商品開発をしなければならないというようなことでもなかったのでね。
人と考え方が違っているのかな(笑)。思えば、バブル全盛期、どこも高級路線に走っていて、周りのコンサルタントなんかは「和牛の高級品で差別化を図りましょう」などと言っていたけれども、それをやっていったら必ず誰かがマズイいことになると本気で考えていたし。

– 先見の明というものでしょうか? ちなみに、そのような感覚でみたとき、何か今の世の中に感じていることはありますか? 

匠(兄):ここに学びに来る人達や周囲にも話しているのですが、原点をしっかり見直したほうがいいと思います。今は、何でもかんでも先走りが多くなっているから。

– ハム・ソーセージは最初から兄弟で作っていたわけではないのですか?

匠(弟):僕もやはり肉屋のせがれですから、この仕事に愛着はあったのですが、徐々にスーパーなど新たな業態も出始めていたにもかかわらず、業界自体が古いシステムのままだったりということで、一度この仕事を離れた時期がありました。
その間、兄がソーセージを作り始めたわけですが、最初に食べたものはひどくまずくて(笑)。ただ、趣味の延長とはいえ、上を目指していこうという思いがあった兄は後にドイツ製法と知り合って、それで作ったものを食べたら、今度は本当に目が飛び出るぐらいに美味しかったんです。

ドイツ製法もハム作りそのものも、僕にとってはまるで未知の世界であり、すごく新鮮でした。そしたら兄が「一緒にやらないか」と言ってきたもんで、「いいね」と。ちょうどその時、「お兄ちゃんが本店でボクが支店をする」と、小学校の卒業文集で書いたことがなぜか急に思い出されたり(笑)。そんな子供の頃の想いも感じながら一緒にやっていくことにしました。

– とても兄弟仲が良い印象を受けます。そういえば、ホームページで「兄を尊敬し弟を尊重する」とありました。

匠(弟):そう思えるようになったのは50歳近くになってからですよね。
製品に対して意見の違いがあったりもしたのですが、時間が経過すると最終的にわかって納得するということもあって、やはり兄を敵に回さなくて良かったなとか(笑)。

兄と私は食べ物に関しての好き嫌いが一緒なんです。味覚がまったく同じなので、どちらが作ろうと同じものができます。
最初はあちこち見ている方向が違っていたのですが、こうした強みもあって、年を重ねるにしたがい一緒の方向を見て進めるようになったということもあります。

匠(兄):ホームページ自体は、商工会さんからもサポートを仰ぎ(小規模企業経営力向上事業費補助金)昨年リニューアルしました。内容や運営的なことに関しては、一番お客さんに近いあなた達が決めて、やりやすいようにやりなということで、若手スタッフに全部任せています。なにせ僕らデジタルはあまり得意じゃない、アナログ人間なので(笑)。

「世界最高峰の味を生み続ける理由」

– お店の人気商品は何ですか?

匠(兄):ビアシンケンとモッツァレラヴルストです。ビアシンケンは“キングオブアウフシュニット(太ソーセージの王様)”と称され、ドイツでもこれは気合いを入れて作っています。
モッツァレラヴルストは、元々ドイツにはチーズが入ったソーセージがあるのですが、うちではモッツァレラチーズを使って作っています。

01_04

– 多くの職人がしのぎを削るなか、ここの味が選ばれ続ける理由はなんなのでしょうか?

匠(兄):自分達が世界一美味しいと思えるものを目指して作っているからです。
100人いて100人が美味しいというわけがない。100人いたら100人の好みがあります。人に美味しいと言ってもらえるものを作ろうということではなくて、自分達が美味しいと思えるものを作る。それが一番にあります。

匠(弟):今の日本人の舌というのは、甘くて柔らかいものが美味しいとされていますよね。そこで、同じ塩のパーセンテージでも砂糖を多く入れれば塩味を隠すことができるのですが、その時点で別のものになる。味がボケるというか。
それでたとえば、どこかのメーカーさんのハム・ソーセージを普段食べていて、うちの商品が塩辛いと感じるのは当然なんです。

匠(兄):その味しかわからないのであればその方が幸せ。本来の味を知ってしまうのは不幸の始まりで、まして小さい子供に食べさせたらもうこれ以外食べないと言うんです。そしたらもう大変(笑)。

匠(弟):以前、ドイツ旅行から戻って来たばかりの常連さんに、「本場でいっぱい美味しいの食べてきたでしょ」と聞いたら、「口直しのために買ってくの」という方もいて。

匠(兄):ドイツといえども、きっちりやっているところばかりではないんです。一握りは本当に一生懸命いいものを作ろうとしてやっているのですが、あとは昔からのやり方でただやっている。機械がどんどん進化しているのだから、それに応じてやり方を少しずつ変えていかなければならないんです。
5年ドイツに行かないでいるとやり方が変わっていたりすることが多々あって、だから、「私はドイツで勉強してきました」と、それにこだわってそこで止まっていると時代遅れになるわけです。

ただ、前に進むには一度原点を見てきた方がいいというので、昨年10月に業者さん達とドイツへ行ってきました。
秋に、冬を越すためのソーセージ作りをするのですが、農場へ行って豚を選び、それを屠畜し、血と骨を抜いて解体してソーセージを作るという、これこそハム作りの原点であり、究極の食育ですよね。
肉屋さんでも、今は自分で骨抜きはしないし、屠畜場に行ったことがないという人ばかりですから、みなさん「何気なく製品を作っていたけれども、もう一度考え直すきっかけになった」と話していました。

– トップランナーとして走り続ける強さや秘訣はどこにあるのでしょうか?

匠(兄):一番好きな言葉が、ロケットの父、糸川英夫博士の「前例がないからやってみよう」という言葉なんです。
ただ、新しいものが出てきたら、一度ちゃんと振り返ってしっかり見て、それから前を見て進んだ方がいいのではないかと、最近はすごく思いますね。

01_04

information
代表取締役 佐野友俊
有限会社グロースヴァルト
静岡県富士市南松野2066-1
0545-85-2208
https://www.e-hamya.com/

>お問い合わせ

一覧に戻る